台所でみる、「顔」
今さら気がついた、長年の癖がある。
それは、居間に居る父の横顔を、台所で一度みることだ。
子供の頃からそうだった。
だいたい、父は分かりやすい「顔」をして居間に居る。
腹の虫どころが悪いと、ムスッとした、まるで苦虫を噛みつぶしたような顔をしているのだ。
本当に分かりやすい。
こう言うときは、話しかけない方がいい。だいたい、難癖をつけてくる。
ご飯の時間で、渋々居間にいくのだが、テレビを観ていてもそう。
こいつはバカだ、何をいってるのかわからない。こいつは、太っていてる、お前(わたしの母に向かって)にそっくりだ。こいつは、また嘘ばっかり言っている。くだらない番組だな。
悪口ばかり言っている。
しかも、それを共有してこようとするから、なお腹が立つ。
そんなに嫌なら、観なきゃいいのに。
特に子供の頃は、それが怖かった。父が、その「顔」をして帰ってくると、居間が一瞬にして重い雰囲気になるからだ。
笑って、しゃべっていたりすると、
(うるさい!テレビの声が聴こえないだろ!?)
と大きな声がとんでくる。
部屋が、しんと静まり返る。
これだけきくと、あまり良いイメージを父に持たれなさそうだが、そうゆう訳でもない。
…というか、機嫌の良い時の変わり具合が凄まじいのかもしれない。
動物園に連れていってくれたり、運動会は必ずみに来てくれたり、楽しい思い出だって色々あるのだ。フラフラと夜遊びなんて一切せずに、真面目一徹な人間だと思う。
予測するに、仕事が辛かったのかもしれない。
仕事は辛くて当たり前だろ?!
そんな言葉を、仕事で苦しむわたしに投げ掛けた父も、きっとずっと苦しむことでしか、仕事と向き合えてこれなかった一人だったんだと今になら感じられる。
そして、「人間は感情の生き物」と、どこがで聞いたことがあるように、どちらの父も、同じ父なのだろう。
大人になって、わたしも反発するようになって、怒られることはだいぶ減ったけど
父の機嫌を、遠くから一度眺めるだけは習慣になっている。
そして…また、今日もその「顔」をしていた。
父は変わらない。